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貴女の傷に僕は憧れていた。それは一度も口にしてはいけないほど下劣な思いであると解っていた。その傷の代償について理解しているつもりだった。遂に僕に僕の傷が生まれ、身を以て苦痛と向き合う事になる。そして浅はかであった自分に出会った。笑った。呆れ果てた、自分自身に。それでも涙は出ない。
いつの間にか貴女も感染していて、僕は償えない罪を背負う。それから僕等は互いに違う言語を用いてお互いを罵り合う様になっていた。しかし瓶を落とす日が訪れ、ループから抜け出すチャンスが通る。白い糊がベージュのカーペットに溢れる。僕の声が止む。そして貴女は僕の視線を追う。二人で透明になるまでジッと糊を眺める。その静寂を二人で共有している事にふと気付くと僕は、かつて造形に熱を出していた頃、貴女の言葉とその意図を理解した。時間が非可逆であるのを恨む。既に痴呆であった僕自身を恨む。僕は今いくつで、貴女は今いくつで、僕は永遠に追いつけない、貴女は永遠に取り戻せない。そんな残酷な時の流れに逆らう事も抗う事も出来ず、僕達は、今。